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真のプロフェッショナル・インストラクターとは
第3回コラム : 「真の『PDCA』を実践することは簡単か?〜『GGG-PDCA』のススメ」

筆者紹介:
株式会社エイチ・アール・ディー研究所 専務取締役研究所長 安田孝雄 氏

沖電気工業 人材開発センタ営業教育グループ長、ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社 監査役、インストラクション部シニアコンサルタントを経て、2003年独立し現職。COOとして営業、開発、インストラクションの各部門を束ねて統括。関与企業延べ300社以上。研修におけるトレーナーの質の重要性について訴え続け、CTT+取得支援のために出版、講演、研修などに奔走中。所有資格:CTT+、CDAなど。
(株式会社エイチ・アール・ディー研究所についてはこちらからご覧ください。)

 

2010年9月1日、ついにISO29990(非公式教育・訓練のための学習サービス−サービス事業者向け基本要求事項)が正式に発行されました。人材開発のあり方は、今後どのように変わっていくのでしょうか?私自身も、将来のビジョンを思い描いてわくわくしているところです。この規格が活用されれば、たとえば、人材開発部門の方は、教育ベンダーを選択するための指針を得て品質の高いサービスを受けることができるでしょう。一方で、教育ベンダーの方は、品質の高いサービスを提供することで顧客からの信頼を得ることができるでしょう。

本シリーズでは、このような流れを意識しながら、
@人材開発の目的は「価値創造のできる社員の育成と企業の成長に貢献する」ことであり、インストラクターの役割は「組織と受講者の学習目的・目標の達成を支援し、満足を得る」ことである
ACTT+は上記を支援する「守・破・離の素」であり、その第一の鍵は「受講者中心主義」である
ということをお話ししてきました。今回は、CTT+の第二の鍵であり、学習目的・目標の達成に直接的にインパクトを与える考え方でもある、「PDCA」について考えていきたいと思います。

1.そもそも、ゴールは明確ですか?〜G-PDCAのススメ
 「PDCA」ならよく知っている、という方がほとんどでしょう。でも、人材育成において真の意味で「PDCA」を実践することはどれぐらいできているのでしょうか?実は、人材開発担当者も研修を依頼されたインストラクターも一生懸命に準備=Planをしたにも関わらず、期待通りの成果が得られなかった、結果をどう評価したらいいのかわからない、ということは、残念ながら珍しくないのです。最も多い原因の1つは、「Goal」=「研修が終了したときに、受講者がどのような状態になっていれば成功といえるか」が事前に合意されていなかった、ということです。ですから、正確には「PDCA」ではなく、「G-PDCA」と呼んだほうが本質を正確に表していると言えるでしょう。

<事例>
人材開発担当者は、「このスキルは会社として強化したいのですが、取り組む人が少ないのが問題です。受講者が楽しく学べる研修にしてください。」とインストラクターに伝えた。インストラクターは、受講者が興味を持ちそうな時事ネタや自分の体験談を交えて研修を実施し、アンケートの満足度は非常によかった。しかし、ある受講者の上司からは、「2日も出させたのに、仕事のやり方が何も変わっていないじゃないか。」と人材開発担当者にクレームがあった。

この事例では、研修のGoalに対する認識が共有されていなかったため、研修が成功したのか失敗したのかを、どのように判断すればいいのかが非常に曖昧です。Goalには、例えば「興味深いと感じている」「知識を習得している」「現場で使いたいという意欲が高まっている」「現場でどう使うかがわかっている」などがあります。もちろん、受講者のレベルや組織での必要性等によって、Goalは変わってきますから、どれが良い悪いというものではありません。人材開発担当者とインストラクターは、1番目や2番目あたりを目指していたようですが、ある受講者の上司は・・・もうおわかりですね。

CTT+のスキル評価基準では、「1.コース事前準備」の「1A:組織のニーズと受講生の背景を確認し、学習目的に関連付ける 」が最初に定義されています。ここでは、受講者の所属する組織が研修に何を期待しているか、加えて受講者の一人一人が研修から何を得たいかも知った上で、研修自体の目的(何のための研修か)と目標(研修後に受講者がどんな状態になればよいか)を設定する、ということが明確に定義されています。CTT+はインストラクターの資格なので、これをインストラクターの役割としていますが、人材開発担当者の方としては、インストラクターに社内の情報を伝えて目的・目標を関係者と合意する、ということが大切になってきます。

2.Goalを測定する手段は適切ですか?
さて、Goalが決まれば、それにしたがって研修計画(Plan)が立てられ、研修の実施(Do)、振り返り(Check)、反省点を今後に活かす(Action)というプロセスを踏むことになりますが、それでもGoalが達成されたかどうかが曖昧、ということは起こりえます。その原因は、多くの場合、研修の評価はアンケートでの理解度や満足度の確認にとどまっており、学習目的・目標に応じた評価方法と評価基準を事前に合意しておかなかったことです。CTT+では、当初に立てた研修の目標に基づいて達成度を評価することが求められており、「5.トレーニングの評価」の特に「5A:トレーニングの全過程および終了時での受講者の達成度を評価する」で明確に定義されています。

たとえば、Goalが、知識を習得することであれば、評価方法としては、アンケートの理解度評価も有用ですが、テストなどを実施したほうが正確な達成度を測ることができます。また、Goalが、現場でどのように活用するかがわかっているということであれば、現場での実践計画を立てたり、ロールプレイをしたりすることが有用でしょう。さらに、どの程度であれば成功と言えるか?を判断するための評価基準も大切です。テストなら何点取れれば合格なのか、実践計画ならどの程度具体的であれば合格なのか。合格した受講者が何割いればいいのか、といった具合です。

3 .結果を測定することを恐れていませんか?〜GGG-PDCAのススメ
しかしながら、人材開発担当者の方にとっても、インストラクターの方にとっても、Goalと評価基準・評価方法を事前に合意することは怖いことでもあるでしょう。「達成できなかった時に責められるのではないか?」このようなリスクを感じるのは当然のことです。しかしながら、組織を取り巻く環境、組織と受講者、人材開発のあり方がめまぐるしく変化する昨今では、最適なGoalを最初から定義することは難しいのが実情です。それでは、どうすればいいのでしょうか?

読者の誰もが認めていることだと思いますが、人材開発担当者の方やインストラクターの方が研修の企画や実施を何度も経験することは、非常に重要なことです。そして、ただ漫然と経験するのではなく、一回一回の研修のたびに自分自身の企画やインストラクションに関して適切な振り返りを行うことによって、自身の成長を促すことが出来ます。CTT+の学習領域では最後に「5B:インストラクターの能力とコースの評価」を挙げており「コース設計」や「トレーニングの準備と実践」、「外的影響」、「トレーニングの効果」などをインストラクター自身が評価し、関係者と共有するように要求しています。

実は、「G-PDCA」の「G」には、「Goal」の他に2つの意味がある、と私は考えています。G-PDCAをきちんと1回まわせば、想定していたPlanとの「Gap」が明らかになります。ときには「Goal」との「Gap」が明らかになる、つまり目標を達成できなかったという場合もあるでしょう。それはそれでよいのです。Gapが明らかになることで、なぜプラン通りに進まなかったのか?それともプラン自体が甘かったのか、あるいは目標自体が高すぎたのか、原因を分析することができます。そうすれば、次回はより適切にG-PDCAをまわすことができるでしょう。そうやって、何度も何度もG-PDCAをまわし続けます。そうすると・・・何が得られるかわかりますか?「Gain(利益)」です。あるいは、「Gift(贈り物)」と言ってもいいかもしれません。人材開発担当者の方にとっても、インストラクターの方にとっても、素晴らしい成果やノウハウが蓄積されるはずです。CTT+の第二の鍵である「G-PDCA」を回すことが、学習目的・目標を達成し、ひいては価値創造のできる社員の育成と企業の成長に貢献するために不可欠なものである、ということを明記しておきましょう。


【「真のプロフェッショナル・インストラクターとは」コラム バックナンバー】
第2回コラム :「真の『受講者中心主義(learner-centered approach)』とは」
第1回コラム : 「CTT+はプロ・インストラクターの守・破・離の素〜人材開発部門への処方箋〜」

(参考)HRD研究所では、CTT+に準拠したインストラクター養成塾を開催しています。
http://www.hrdins.co.jp/seminar.html

 


 

 



 
 
 

 

 

 
 

 
 
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